「その判断、社長が入院したら誰がしますか」
社長が3日いなくても回る会社と、半日で止まる会社。違いは社員の優秀さではありません。答えが一人の頭の中にしかない状態を、どこからほどいていけばいいのかをお話しします。
※ この記事は、複数の事例を参考に構成したモデルケースです。特定の企業を指すものではありません。
社長が倒れて困るのは、社長ではありません。残された人です。
岩手県内の、社員15名ほどの建設会社を思い浮かべてください。社長は現場にも出ますし、見積も自分で作ります。長い付き合いのお客様からの電話は、やはり社長にかかってきます。
ある日、その社長が入院しました。大したことはなく、三日で戻れるという話です。
三日で、何が止まったか
現場は回りました。職人さんたちは、自分の仕事を分かっています。
止まったのは、別のものでした。
見積が出せない。
図面を見て「この規模なら、だいたいこのくらい」と当たりをつけられるのが、社長だけだったのです。計算の仕方が分からないのではありません。どこを見て当たりをつけているのかが、誰にも分からないのです。
誰をどの現場に入れるかが決まらない。
あの現場は気を使うからあの人。あの施主さんにはあの人だと合わない。そういう判断が、どこにも書いてありませんでした。
「少し融通きかない?」に答えられない。
長い付き合いのお客様からの連絡です。どこまでなら受けるのか。その線は、社長の頭の中にしかありません。
三日後、社長が戻ってきて、たまっていたものを一日で片づけました。会社は無事でした。
でも、この三日で見えたのは、この会社は社長がいないと前に進まないということでした。
これは、仕事が遅いという話ではありません
こういう話をすると、「もっと楽になる道具を入れましょう」という話になりがちです。
でも、この会社が困ったのは、作業が遅かったからではありません。
答えが、一人の頭の中にしかなかったからです。
道具を入れても、中身がなければ同じです。見積ソフトを買っても、「だいたいこのくらい」の当て方が入っていなければ、使えるのはやはり社長だけです。
「後継者を育てないと」と思っている社長は、多い
大同生命の全国調査(2024年5月・7,458社)では、事業承継の課題の1位は「後継者の育成」で53.0%でした。半分以上の社長が、育てなければと思っています。
ところが同じ調査で、「後継者への経営権限の委譲」を課題に挙げた会社は 10% でした。育てなければと思っている人は半分以上いるのに、渡すことを課題だと思っている人は、ずっと少ないのです。
意地悪で渡さないのではないと思います。
渡す中身が、まだ言葉になっていないのです。
「見積を任せる」と言っても、任せられる側は何を基準に判断すればいいのか分かりません。聞けば答えてもらえますが、聞けるのは社長がいるときだけです。
そして、聞かれた社長の方も「自分でやった方が早い」と思ってしまう。こうして、育てたいのに育たない状態が続きます。
「うちは特殊だから」は、その通りです
よく「うちは特殊だから、そういうのは合わない」と言われます。
その通りだと思います。地域も、お客様も、職人さんの顔ぶれも、会社ごとに違います。だからこそ、よそから買ってきた仕組みをそのまま入れても、使われないまま終わります。
でも、逆に言えばこうです。
その特殊なところこそが、会社の価値です。
なのにそれが、どこにも書かれていません。社長が何年もかけて身につけたものが、社長の代で終わってしまう。
これは、もったいない話です。
まず、今週の質問を三つ
全部を書き出そうとすると、たいてい途中で止まります。
おすすめしているのは、こういう始め方です。
今週、社員から聞かれたことを、三つだけ思い出して書く。
聞かれたということは、その人には分からなかったということです。そして同じことは、来週も来月も聞かれます。
答えだけではなく、なぜそう判断したのかを一行添えてください。その一行が、実は一番引き継ぎにくい部分です。
三か月続ければ、36本の判断が会社に残ります。それはもう、社長の頭の中だけのものではありません。
会社に残るものを、作りませんか
道具は、あとからでも選べます。
先に必要なのは、社長の頭の中にある判断を、次の人が読める形にしておくことです。
それがあれば、社長が三日いなくても、会社は前に進みます。若い方に任せられるものも増えます。そして何より、社長が何年もかけて身につけたものが、会社に残ります。
少しずつで大丈夫です。まず、三つから。
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